ハブ(波布)は、爬虫綱有鱗目クサリヘビ科ハブ属に分類されるヘビです。別名ホンハブといい、日本固有種の毒蛇です。
近縁種では、ヒメハブ、サキシマハブ、トカラハブ、タイワンハブなどが確認されています。ハブ(ホンハブ)、ヒメハブ、サキシマハブ、トカラハブ、は日本の沖縄周辺にしか生息していませんが、タイワンハブはその名の通り台湾にも生息しています。
生息地域の住民との関わりは古く、日本の固有種ということもあり、現在ではハブ酒にされたりと名物になっています。また、奄美大島には奄美観光ハブセンターというものがあります。
おみやげ屋も併設されており、ハブの革を使った製品やハブ酒などの普通のお土産もある他、センターで製造されている、ハブ粉末、ハブ肝の精、ハブ胆の精、ハブ油、ハブチン(ハブの陰茎)なども販売されています。ハブ粉末、ハブ肝の精、ハブ胆の精、ハブ油、ハブチンなどは保健食品として、全国に愛用者がいるそうです。
ハブの分布に関しては、近縁種を含め、沖縄周辺のみの生息という非常に狭い範囲ながら複雑で、飛び石状の特異な分布をしています。(タイワンハブを除く)
例として、北から、
- トカラ列島(南西諸島のうち、鹿児島県側の薩南諸島に属する島嶼群)に近縁種のトカラハブが、奄美群島と沖縄諸島にはハブとヒメハブが、八重山諸島にはサキシマハブが生息するが、宮古諸島には生息しない
- 奄美大島、徳之島、沖縄本島にはハブがいるが、その間の沖永良部島、与論島には生息しない
- 沖縄本島周辺では、伊江島、伊平屋島にはハブが生息するが、その間の伊是名島にはいない
- 久米島、渡名喜島にはハブが生息し、粟国島にはいない
- 慶良間諸島でも、渡嘉敷島にはハブが生息するが、座間味島にはいない
など、近接した島でも生息する島と生息しない島に分かれています。
この理由について、現在の仮説では、
- 氷河期に陸続きであった琉球列島に、ハブ類が分布を広げた
- 氷期が終わり、海面が上がり、島々が孤立
- さらに海水面が上昇し、低い島は水没、陸上動物は全滅した
- 海水面が下がると低い島も顔をだすが、ハブは渡ってこられない
からだと考えられています。ざっくりと言えば、標高の低い島はハブが生息しておらず、固有種も少ない傾向がある、ということのようです。
スポンサーリンク
形態と生態
ハブ(ホンハブ)の全長は100~200cm、最大全長241cm、体重は約1.35kg。雄は雌より大きくなり、頭部は大きく、三角形をしており、眼と鼻の間にはピット器官(赤外線感知器官、要はサーモグラフィー)を持っています。
長さに関しては、ほぼこの通りですが、体重はに関しては2.8kgの固体、さらには3.15kgで胴回り約20cm程の固体が捕獲されています。ハブ(ホンハブ)はハブ属内でも大型の種類です。
毒性はニホンマムシよりも弱いですが、毒牙が約1.5cmと大型で毒量が100~300mgと多くなっています。1回咬まれるにあたり、平均22.5mg、最大103mgの毒液を排出します。
咬まれた場合、循環不全によるショック状態に陥るため、血清の使用などによる迅速な処置が必要になります。致死量は体重1kgあたり乾燥重量にして6mg。
症状は腫れや痛みがあり、直接的、あるいは局部が腫れる事で循環機能が圧迫され、間接的に患部の壊死・機能障害を引き起こす事もあります。手足を咬まれた場合は、筋が弛緩しなくなる事により運動障害を残すこともあります。
また毒は嘔吐、腹痛、下痢、血圧低下、意識障害などの症状も引き起こし、血液凝固成分も含まれます。しかし、血液凝固異常や急性腎不全を引き起こすことはあまりありません。
一度咬まれたことがある場合は、蜂同様、急激な血圧低下や気管狭窄といった重篤な症状を伴うアナフィラキシーショックを引き起こす事もあります。
咬まれた場合、咬まれた場所によりますが、止血して(紐やベルトなども可)傷口を流水で流しながら、出来るだけ血液を搾り出します。また、これらの処置の前に救急車を呼んでおきましょう。
ちなみに、筋肉や血管に入ると、このように非常に危険ですが、口から入ると唾液や胃液、腸液でただちに無毒化されます。
夜行性で、昼間は穴の中などで休んでいるが、小雨や曇天の時などには昼間にも活動します。平地から山地の森林、草原、水辺、農地に棲んでおり、地表でも樹上でも活動します。
ネズミを追って、民家周辺にも入り込む他に、沖縄式の墓は石垣を高く積み、藪や森の近くに作られるので、ハブがよく棲み着くと言われます。実際に発見される場としてはサトウキビ畑も多く、理由としては、サトウキビ畑は年に一回の刈り取り以外は高い草に覆われ、ハブの侵入する機会が多いからです。
しかし、サトウキビ畑の周りに森林も藪も少ない場合は、出現は少なくなります。一年を通して見られ、冬眠はしませんが、変温動物ということもあり、気温の低下する12~2月頃には動きが鈍くなります。
非常に攻撃性が強く、ピット器官で感知したものには威嚇などをせず即座に襲いかかります。徳之島に生息する個体は特に攻撃的で、実際にハブに咬まれる人が最も多いのは徳之島です。
攻撃時には体の2/3ほども伸ばして毒牙を立てます。しなる鞭のように俊敏なハブの攻撃は、現地の人に「ハブに打たれる」と呼ばれています。
食性は動物食で、主に小型の哺乳類(ネズミなど)、鳥類、爬虫類、両生類、魚類などを食べ、クマネズミ属のネズミは捕食の82.5%を占めるとされています。また、アマミノクロウサギやネコ、オオウナギなどが捕食された例もあります。子供の蛇は、爬虫類や両生類、小型の哺乳類を食べる傾向が強いようです。
繁殖の際は、卵で生まれ、4月に交尾を行い、オス同士でからみつきあい、争います(コンバットダンス)。7月頃に、1回で4~15個の卵を産み、卵は約40日で孵化します。
子供の蛇は孵化するときに既に毒を持っています。メスは出産直後から、しばらくの間は卵を守っています。
生命力が非常に強く、一度捕獲されたハブは自分の体内の脂肪分が尽きるまで何も食べずに、およそ一年前後も生きます。しかも、水に身体を浸けて、体温を奪われている状態でも6ヶ月ほど生きています。
また、沖縄周辺ではハブを料理して食べますが、その時にハブの皮をはぎ、内臓を取り出して体をニ分に切断しても、それぞれしばらくは動いています。
ハブといえばマングースとの関係が非常に有名です。一般的には、「ハブとマングースは天敵同士で遭遇すると激しく殺しあう」の様なイメージがあります。
このイメージは、マングースがハブの駆除のために持ち込まれた事と、かつては沖縄や奄美の各地で観光客向けにハブとマングースを戦わせるショーが行われていた為だと思われます。
しかし、このショーは動物愛護法の改正により禁止されたため中止され、現在では、戦いの様子を写した映像を上映しています。
また、このような対決は、自然界ではまず有り得ない事であり、ショーにおいては、人為的に戦わせられていました。この様に天敵イメージが強い両者ですが、実際はそのような事はほぼありません。
マングースは確かに、ハブ対策としてインドから持ち込まれたのですが、むしろハブを捕食するどころか現地のウサギや昆虫といった離島独特の希少種を捕食し、絶滅危惧種に陥った在来種が多く存在します。
有名なところで、国の天然記念物に指定されているアミノクロウサギやトゲネズミ、ケナガネズミ、ヤンバルクイナなどです。さらにそれに加えて、農作物や鶏らの家畜も食い荒らしただけでなく、家屋に浸入してペットのネコを襲った例もありました。
そもそもマングースにとって、生息地域(沖縄周辺の離島)の生態系の頂点に君臨するハブは、捕食するには非常に危険な相手です。
マングースにすれば、死ぬかもしれない命がけでハブを捕食するより、他に簡単に捕食出来る餌があるのですから、わざわざ危険なハブを襲う理由がありません。
このためマングースは日本国内において完全な害獣と化し、当初の目的とは逆に国による駆除作業が進められており、島では、年間数千頭の駆除を目標に「一頭残らず駆除」する方針だそうです。
人間との関わりの歴史
ハブと人間との歴史は主に毒についてのものが多いです。昔から毒によって死者が出ており、そのため1865~1870年の薩摩藩では、卵を含め駆除した者に、玄米を賞与として与えていました。
近年は血清の普及により、ハブに咬まれたことによる死亡例はほぼなくなっていますが、1979~1999年には年あたり0~2人の死亡例(81年、87~89年、98年に2人ずつ死亡)があります。死亡例は、咬まれてから24時間以内が75%、48時間以内が90%となっています。
本種の血清は1904年に北島多一によって作成され、1905年に実際に投与されるようになりました。この血清は液体で、冷蔵庫が普及していないにも関わらず冷温保存が必要であったため保存期間が短かったが、後に沢井芳男によって凍結乾燥させた血清が開発されました。
後に、ハブ毒中和作用のあるEDTAなどを添加した血清が作り出され、筋肉注射だけでなく静脈注射も併用して行われるようになった為、壊死による後遺症も減少するようになりました。
1965年からは無毒化した毒素や高純度トキソイドによる予防接種が開始されましたが、2003年にトキソイドを作成していた研究所の閉鎖に伴い予防接種は終了しました。
毒によって、死者を出したり駆除されたりしていたハブですが、一方で農家にとっては有用な存在でもありました。
沖縄・奄美の農家にとっては、畑を荒らす害獣である、ネズミを退治してくれるという事で、ハブは非常に重要な存在となっており、『完本 毒蛇』ではハブについて、「毒さえなければ、ハブほど役に立つ動物はいない」という記述があるほどです。
また、最も危険な毒蛇の一つに数えられているハブには、非常に強い攻撃性があるために森林への立ち入りが恐れられ、そのことが結果的に琉球列島の森林環境を良好に保ってきたとも言われています。
また、沖縄に関連して、沖縄の在日米軍沖縄駐留部隊にとっても関わりが深いものとなっています。戦後、沖縄本島の各所に駐留している在日米軍にとってもハブは大きな脅威であり、「Habu」という和名は、在日米軍内でも通じる単語になっています。
また「Habu」(もしくは「Have」)はアメリカ空軍でも航空機のニックネームに用いられており、「Habu Plane(ハブ・プレーン)」「Have Blue(ハヴ・ブルー)」などのニックネームやコードネームが使用されています。
他には、ハブの内臓を取り除いて乾燥させた物を、漢方では「反鼻」といい、「ハブ酒」などの原料として多くのものに利用されています。
ハブを漬けた酒の品種、「ハブ酒」は、沖縄の名物の一つとなっています。ベースは奄美大島・徳之島の黒糖焼酎、沖縄の泡盛、鹿児島の芋焼酎などで、それにハブが漬けてあります。
漢方由来のマムシ酒と同じく薬酒の一種とされ、男性が飲むと精力向上効果があるといわれていますが、科学的根拠はないとされています。
ちなみに余談ですが、TVドラマ版『男はつらいよ』の主人公、寅さんは、最終回でハブに咬まれ死亡した、という最期になっています。
主な成分
ハブは漢方や薬酒に利用されるように、色々な栄養成分を持っています。「必須アミノ酸」12種類全てがバランスよく含まれていると科学的に証明されていますし、タンパク質は牛肉の3倍、各種ビタミンやミネラル、カルシウム、リン、リノール酸、リノレン酸なども多く含まれています。
しかもこれらの栄養素が、人体に非常に吸収されやすい形で含まれている為、滋養強壮効果や精力増強効果があるそうです。
アミノ酸 | タンパク質 |
カルシウム、リン | リノール酸 |
リノレン酸 | タウコロール酸 |
各種ビタミン | ミネラル類 |
など
効果
ハブのオスは性器が4本あり(2本の先端が各々2つに分かれています)、メスは性器を2つ持っています。このハブの交尾は短くて6時間、長いときには30時間以上になる場合があります。この事から、ハブには精力増強効果があると言われています。(科学的根拠はなし)
しかし含まれる成分、アミノ酸やミネラル類には精力増強効果のあるものも多いので、個人的には、精力増強は期待できるのではないかと思います。また、滋養強壮効果もあると言われています。
成分による効果の一部
- アミノ酸
- たんぱく質
- カルシウム、リン
- リノール酸、リノレン酸
- 各種ビタミン、ミネラル類
体力増進、血行促進、ホルモンの分泌促進、ホルモンバランスの正常化、冷え症改善、など
筋肉の増強、免疫向上、筋肉強化、体組織の作成、貧血の予防、高血圧の予防、など
精神の安定、代謝の向上、ストレス解消、免疫向上、骨や歯の形成、筋肉や神経の正常化、肝臓や心臓の機能正常化、など
血流改善、血栓予防、アレルギー抑制、老化予防、うつ症状軽減、コレステロール値低下、血圧・血糖値の降下作用、肌の保湿、など
疲労回復、代謝向上、食欲向上、筋肉や神経の正常化、ストレス解消、免疫向上、精神安定、など
ちなみにカルシウムとリンはミネラルの一種です。
副作用
ハブの副作用ですが、薬ではなくただの食品なので、ハブそのものを摂取した場合や、漢方に使用されている場合の副作用が特に無いようでした。ですので、栄養素別に、主に過剰摂取による副作用、悪影響を紹介します。
- アミノ酸
- たんぱく質
- カルシウム
- リン
- リノール酸、リノレン酸
多少の必要以上分のアミノ酸は、代謝によって排出されるので基本的になし
ただし、過剰摂取しすぎた場合は情緒不安定や下痢などを発症する場合があり
また、ホルモンの分泌に関係するものもあるので、妊娠中や腎臓や肝臓に障害がある方は注意が必要
その他には、免疫力の低下や体重の減少、肝疾患の悪化・血中葉酸濃度低下、白血球の増加・尿中カルシウム排泄の促進、高メチオニン血症、動脈硬化、低血圧やめまい、嘔吐など
こちらも、肉などの食物に含まれているだけあって、基本的に過剰摂取しても悪影響はなし
しかし、過剰摂取の場合は、肥満、腎臓疾患や糖尿病、また骨が弱くなる可能性があるといわれている
短期間であれば問題ないが、長期間過剰摂取した場合、高カルシウム血症や腎結石、ミルクアルカリ症候群の原因になる
また、高血圧、情緒不安定、筋収縮動作の悪化、他のミネラル吸収低下による副作用の併発など
カルシウムの吸収阻害するため骨や歯がもろくなる、腎臓に負担がかかり腎障害になったりする可能性あり
副甲状腺ホルモンに障害が発生する、肝機能の低下など
アトピー性疾患の発症、肥満、吐き気や膨満感、生活習慣病の発症、軽度のアレルギー反応を起こす可能性ありなど
※ビタミン、ミネラル類に関しては非常に種類が多く、効果も多岐にわたるため割愛します。
様々な副作用がありますが、これらの成分は元々普段口にする食品に含まれているため、特に気にする必要は無いと思います。そもそも副作用という言葉自体も、医薬品に用いられる言葉なので、ここで使うのは不適切なのですが、便宜上使用させていただきました。
摂取に関して、基本的には何の問題は無いのですが、人それぞれの体質や体調などが異なります。もし、漢方などの摂取に関して心配なのであれば、医師に相談するようにしましょう。
まとめ
蛇の漢方への使用に関してはマムシが有名ですが、ハブも多数の有用な栄養素を含んだ健康に効果的な食品です。昔からの迷信的な効果がある、という様なイメージや、漢方においてもゲテモノ素材のような印象が一般的にはあると思います。
実際、見た目はちょっと怖いです。しかし、身体には良いですし、漢方にも使用されている事からも効果は期待できると思います。ですので、先入観を持たずに、一度試してみるのも良いのではないでしょうか。