不妊や夫婦生活の悩みの多くがセックスレスだと言われています。
そのセックスレスの原因の一つであり、近年増加していると言われているのがこの性嫌悪。今回はその性嫌悪障害と呼ばれる心のお話です。
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性嫌悪障害とは?
性嫌悪とは、セックスや性的な事柄に対して嫌悪感を抱き、積極的に嫌う事をいいます。
嫌悪の対象となる性行為の種類やその程度は人によって様々で、性的な表現、性的な情報、性的な視線など、非常に多岐にわたっています。性嫌悪する人(性嫌悪者)は、性的接触を嫌っていますが、恋愛感情や性的欲求がどの性別にも向かわない無性愛者とは別であり、どの性別やどの性的指向であっても起こり得えます。無性愛者であっても性嫌悪を伴わない人も存在します。
ちなみにこの性嫌悪は、性行為や性的な事柄に関する個人の好き嫌いの一種であるとされ、それ自体は必ずしも病気というわけではないとされています。
この性嫌悪によって性的伴侶(彼氏や彼女、夫や奥さんなどの事)との状態が困難になることを、性嫌悪障害(または性嫌悪症)といいます。
セックスレスの原因の一つに性欲層障害というのがあるのですが、この性欲層障害には2つのタイプがありそのうちの片方がこの性嫌悪障害です。これは精神障害の一種として定義されています。
DSM-IV-TR(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、日本語では「精神障害の診断と統計の手引き」、アメリカ精神医学会の定めた精神障害に関する診断基準の事)では、性嫌悪障害は次のように定義付けられています。
- 性的伴侶との性器による性的接触のすべて(またはほとんどすべて)を、持続的または反復的に極端に嫌悪し回避すること
- その障害によって著しい苦痛が生じ、または対人関係が困難になっている
- 性機能の不全は(他の性機能不全を除く)他の第1軸障害では上手く説明されない
※第1軸障害とは精神障害と定義付けられるものの中から第2軸障害(10種類のパーソナリティ障害と精神遅滞)を除いたもののこと
【参考資料】
精神障害の診断と統計マニュアル(Wikipedia)
難しいことを書いていますが、要は性嫌悪障害とは、性機能には問題ないにも関わらず、パートナーとのセックスに嫌悪感があるために行為に至ることが出来ない状態。さらに、そのためにパートナーとの人間関係に大きな支障が出る状態のことです。
ただし間違えないでほしいのは、この性嫌悪障害は気持ちがコントロールできない状態なだけであり、決して相手(パートナー)に興味がなくなったという事ではないという事です。
数年前までは、女性特有の症状と言われていましたが、近年では男性の性嫌悪障害が急増しています。さらに、性嫌悪障害は日本人特有の症状と言われています。
性嫌悪障害の原因や男女での違い
前述の説明からわかる通り、性嫌悪障害は男性女性関係なく発現します。
何らかの性的な事に対する過去のトラウマが原因で性嫌悪になる場合や、性的ないじめなどを受けたことによって性的な事柄に対する恐怖感を覚え性嫌悪になるパターン、パートナーを満足させないといけないというプレッシャーによって疲れてしまい、性的な事自体が嫌になってしまう場合、性的な事柄がうまくいくかという不安感や嫌われるのではないかという恐怖心、またはそれによるプレッシャーなどが原因といわれています。
また、原因は男性と女性で傾向が異なっています。
全ての人がそうというわけではなく、あくまでも「傾向として」の話ですが、女性の場合は親による教育で性的なものは悪い事、汚い事だと教えられていたり(潔癖)、性的なイタズラやセクハラなどによって何らかの心のダメージ(トラウマ)があるために性嫌悪障害になる事が多いと言われています。自身の価値観や恐怖心から性嫌悪障害になるという事です。
それに対して男性の場合は、自身の中でのパートナーのポジション(認識)が変化してしまったために性嫌悪障害になる場合が多いといわれています。
どういう事かというと、自分の中でパートナー(男女関係)の認識が、母子や兄妹(姉弟)などの性的な対象外の存在(肉親愛)に変化してしまうという事です。
また、仲が良いためにいつの間にか親友関係のようになり、照れくさくてセックスが出来なくなるパターンや、相手が愛おしくて仕方なく、赤ん坊や幼い子供のようになってしまい、スキンシップは取れるがセックスには嫌悪感があるパターン、または単純に相手の事が嫌いになり、嫌いな相手との性的な接触が嫌に感じるパターンなどもあります。
男性の場合の原因をまとめると、
- 母子の様な関係に変化
- 兄妹、または姉弟の様な関係に変化
- 親友の様な関係に変化
- 愛らしい、またはマスコットの様な存在に変化
- 嫌いになった
という感じです。
これにより、女性は相手が誰であろうとも性的な事柄全般に対して拒否反応を示すのに対して、男性はオナニーをしたり他の女性とは性的な関係を持てるが、パートナーに対して“のみ”激しい性的嫌悪を示すことが少なくないといわれています。
性嫌悪障害による影響
性嫌悪障害による弊害で代表的なものはセックスレスです。
性嫌悪障害がどの程度なのかにもよりますが、性的なものに対して嫌悪感を抱くという事は、もちろんセックスに対しても嫌悪感があるという事です。
嫌悪感のある行為を行いたいという人はいません。そうなるともちろんセックスを行うこともありませんので、セックスレスになります。セックスの回数が数年に1回という場合もあるようです。
セックスはパートナーとのコミュニケーションとして大きな役割を果たしているため、セックスレスになると、多くの場合において夫婦仲は悪化します。
長年のセックスレスはお互いにストレスが溜まります。性嫌悪感を持っている側は、性的な行為を求められると嫌悪感が溜まったり、性嫌悪感を持っている自分に対しての嫌悪感や求めてくるパートナーに対する申し訳なさ、それに答えられない自分への嫌悪感を持ってしまうかもしれません。
またパートナー側では、「自分に興味がなくなったのか?」といった不安やそのような自分への自己嫌悪、または浮気を疑ってしまったりといったことを考えてしまうかもしれません。
お互いにストレスが溜まり、傷ついてしまった結果、両者の間に取り返しの付かない溝ができ、別れたり離婚に至る場合もあります。
またそれ以外にも、主に対人関係において弊害が発生する場合があります。もちろんこちらも程度によります。日常生活に支障がない場合は、無理に解消しようとせずに性愛から距離を置いて過ごす事も可能です。
しかし程度によっては、性的な情報や表現物、性的な内容の会話などに露骨な不快感を示したり、攻撃的な姿勢で排除する言動も見られます。そのような場合は周囲との摩擦やトラブルを生むこともあります。さらに極端な場合には、表現規制運動やポルノ廃絶運動などに発展する場合もあるようです。
解消方法
原因が精神的なものなので、簡単な解消というのは見込めないでしょう。幼少からの教育によって形成された価値観や、トラウマなどの心の傷などは簡単には覆りませんので、心のケアには時間がかかってしまいます。
しかし逆に精神的なものというのは、案外簡単に解消される場合もあります。時間の経過や何らかのきっかけ、または積極的治療などによって軽減や解消される可能性もあるといわれています。
実際の医療では主に、セックスセラピーやカウンセリング、恐怖症の治療として抗うつ剤が処方されたりします。しかしやはり精神的な要因によるものなので、完治する例は少ないと言われています。
男性の場合は、「妻(彼女)を性的パートナーとして見る目を復活させる」事で改善される可能性があるといわれていまこれは、男性の性嫌悪障害の原因が、「相手を性的パートナーとして見れなくなった」事である場合が多いためです。
これを改善するために、精神科医の阿部輝夫さんは著書「セックスレスの精神医学」の中で、
妻のイメージでマスターベーションをする
例え、映像などの力を借りたとしても、最後は妻のイメージで射精をする
「セックスレスの精神医学」 / 阿部輝夫 著
事が出来るようになれば、様々な段階を経て、最終的にはセックスに結び付ける事も可能であるとしています。またこれには、女性側の根気よい協力と夫婦間のコミュニケーションが必要と言われています。
いずれにしろ、改善には時間がかかりますので、お互いが根気よく協力し合うことが大切です。
まとめ
性嫌悪障害は心理的な要因によるものなので薬を飲めば治るというような単純なものではなく、また治療を受けたとしても改善されるかどうかというのはかなり不確実です。
対策としてもあまり有効といえるものは無いため、セラピーやカウンセリングなどによって根気よく治療していくことが大切です。性嫌悪障害だからといって、自分やパートナーが悪いわけではもちろんありません。
ですので自分、もしくはパートナーが性嫌悪障害であっても、お互いに相手の事を理解し合い、二人で根気よく乗り越える努力をしましょう。